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@yunoLv3

「SFと人間拡張の未来」を勝手にレポートする

 

東大の大学院である情報学環では、「ヒューマンオーグメンテーション学」*1 に関する活動が
SONYと東大の共同運営で行われています。その活動の一環として、2018年3月26日に
Symposium 2018 | The future is already here: SFと人間拡張の未来」が開催されました。

 

本記事では、シンポジウムの様子を勝手にレポートして行きます。
きちんと記録を取っていた訳ではないので、内容的に不完全な部分があるかもしれません。
予めご了承ください。

 

 筆を執った人→ゆうのLv3(@yunoLv3

対談:暦本教授 & ウィリアム・ギブスン

イベント開幕に流されたのは、暦本純一教授 *2ウィリアム・ギブスン氏 *3 の対談動画。

  

 

www.youtube.com

 

未来は既にここにある、ただ均等に行き渡ってないだけだ。

("The future is here, it's just not evenly distributed yet.")

                by ウィリアム・ギブスン 

ギブスン氏の有名な言葉。対談の中で暦本先生は、この言葉の真意を氏に尋ねました。

 

「SFが行っている営みは、未来を予測するというより
この世界をユニークな視点で観察することだ」

身の周りにある何気ないモノ・コトも、ユニークな視点で観察することで
「これはこうなり得る」「これは実はこういうものなんじゃないか」
という進化や変化の可能性を見出せる。既にある現実を観察することで未来が生まれるとギブスン氏。

 

実際、氏は「電脳空間に入り込む」というアイディアを、ゲームセンターで子供たちが
アーケードゲームに没頭しているのを見て閃いたと語ります。

 

子供たちが遊ぶ様子、オフィスでのデスクワーク、買い物、コミュニケーション……。
意識しなければ見過ごしてしまうような「いつも通りの事象」に、既に未来は潜んでいる。
ギブスン氏の名言はそういう意味なんですね。

 

登壇者

シンポジウムは暦本先生に加えて次の2人を迎え、半パネルディスカッション形式で進みました。

 

18個のシンギュラリティ:『キュー』

「シンギュラリティ(技術的特異点)を目前に、人類の進化の意味を根底から問う小説」

上田岳弘の長編『キュー』を読む - Yahoo! JAPAN

 

上田さんはこの小説の中で、18個のシンギュラリティ(技術的特異点を描いていると言います。

  • 前半の9つ……「発生」による一般シンギュラリティ
    《言語の発生》、《鉄器の発生》、《法による統治》、《活版印刷》、《原子力の解放》、《インターネットの発生》など
  • 後半の9つ……「廃止」によるその後のシンギュラリティ
    《個の廃止》《性の廃止》《寿命の廃止》など

 

後半の9つが特徴的ですよね。

スマホなどのテクノロジーによって、個人間の「差」というものは少なくなっている。
一般シンギュラリティの後の人類は、個という特徴を徐々に失ってゆき、
「全体」として、「一つ」として振る舞うようになるのでは、とのこと。

 

そう言えば暦本先生も先の動画の中で、次のようなことを言っていました。

Jack-inで他者の視点に入り込むことは、2人の人間が《接続》されているということ。そうなると、どこからが「私」で、どこからが「あなた」なのか、完全に区別することは難しい。

 

人間の感情は進化して来たか? 

ドミニク・チェン氏は、 アルスエレクトロニカ*4 で開催された「Future Innovators Summit」に
参加した際に、グループワークで「Future Humanity」について議論したことを紹介しました。

How can be human more emotionally matured?

人類の感情は、どうしたらより豊かになるのか?

ドミニク・チェン氏らのグループでは、このような問がテーマに。テクノロジーなどよって
人類の知性や身体は拡張されていますが、果たして感情は豊かになっているのでしょうか?
どうしたら、人類はより豊かな感情を持ち得るのでしょうか。

 

グループワークでは、
「亡くなった家族や友人に対する感情を高められるか?」
という問を取り上げ、一つのデバイスを制作したそうです。 

http://www.a-m-u.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/02/heart_beat_alter.png

http://www.a-m-u.jp/article/grayscale_works.html/

 

それが「心臓祭器」 。
生前の鼓動を記録しておき、個人を偲ぶときに再生する装置を実装してみたのだとか。
世代を越えた家族の心音を、遺族、先祖、家族……と重ねて再生していくことも出来ます。

 

新しいデバイスやテクノロジーが登場するたびに、
人間は新たな「価値観」や「関係性」を獲得します。ドミニク・チェン氏は
「かつては写真を撮られると魂を抜かれるなど、写真が死と結び付いていた」と述べました。

 

これは僕個人のぼやきですが、
死者との関係性だけでなく、テクノロジーによって人、身体、自然、社会など、
付き合い方が変わる例はたくさんあると思います。

SNSによって、いつでも・どこでも・多人数に連絡出来るのが普通になった。

● 医療の進化によって、かつて不治の病だったものも完治するようになった。

● 眼鏡やレーシックなどによって視力の矯正が出来るようになった。 

アップデートされ続ける世界観の渦中で、人類の心の歴史には、
新たな(未発見の)感情が記述されていくのでしょうか。気になります。

俳句の情報量

ちるさくら海青ければ海へちる
              (高屋窓秋) 
頭の中で白い夏野となつてゐる
                 (  同   )

トークのバトンが暦本先生に回ってきました。最初の話題は俳句。

 

俳句はたった17文字しかないのに、
聞くだけで頭の中に情景や心情がありありと思い浮かぶことがあります。

暦本先生はこれを「17文字のコードで脳のAPIを上手く叩き、クオリアを引き出している」
といった言い方をしていました。
時に8Kの映像情報よりもリッチな情報を脳に与えることができる、たった17の文字コード

 

これは、写真技術が発明されてなお、絵画(特に写実主義でないもの)が
不要とならないことと関係していそうです。

絵画に限らず、世の中には、単純にビット数を積むだけでは伝えられない情報
(または情報伝達路)が存在するようです。
 

SFの歴史

暦本先生は最後に、SFの歴史を無限に紹介していました。

 

サイバネティクス全史――人類は思考するマシンに何を夢見たのか

サイバネティクス全史――人類は思考するマシンに何を夢見たのか

 

最近出たサイバネティクスの歴史を解説している本。

 

サイバネティックSFの誕生―ギリシャ神話から人工知能まで

サイバネティックSFの誕生―ギリシャ神話から人工知能まで

 

 

宇宙・肉体・悪魔―理性的精神の敵について (1972年)

宇宙・肉体・悪魔―理性的精神の敵について (1972年)

 

サイバースペースという概念が初めて書かれた本(?)
  

ウィーナー サイバネティックス――動物と機械における制御と通信 (岩波文庫)

ウィーナー サイバネティックス――動物と機械における制御と通信 (岩波文庫)

 

 

未来のプロフィル (ハヤカワ文庫 NF 45)

未来のプロフィル (ハヤカワ文庫 NF 45)

 

アーサー・C・クラークは、雑誌「PLAYBOY」にエッセイを寄稿していたようです。
1961年に「サイボーグ」という言葉が初めて登場したのもここ。
その原稿は今、この「未来のプロフィル」に収録されているとのことです。

 

サイボーグ009 (1) (秋田文庫)

サイボーグ009 (1) (秋田文庫)

 

 日本で『サイボーグ009の連載が始まったのは1964年(言葉が造られてから僅か4年!) 

 

Burning Chrome

Burning Chrome

 

ニューロマンサー』の前身である『Burning Chrome』(邦題『クローム襲撃』)が
雑誌OMNIに連載され始めたのは1982年。

  

 DisneyのTronも初出は1982年。

 

www.youtube.com

 

世界初のバーチャルYoutuber(※3DCGのキャラを動かして配信をしようとした人)
「MAX headroom」(1984年)

当時は3DCGをリアルタイムに動かすだけのマシンが存在しなかったため、
生身の人間がCGっぽいメイクをして撮影していたのだとかw

  

攻殻機動隊 (1)    KCデラックス

攻殻機動隊 (1) KCデラックス

 

日本で『攻殻機動隊』(オリジナルの漫画)の初出は1989年。
脳の神経にデバイスを直接接続する電脳化、やサイボーグ(義体化)技術が発展、普及した社会を描く。

 

言語というテクノロジー

シンポジウムの最後に取り上げられた話題は「共話」。
共話は「二人以上の人がそれぞれ主語、述語を分けて文を完成させる」こと。
共話
A「今日の天気さあ」
B「ああ、気持ち良いよね」
 
これはどうやら、英語やフランス語では(言語の持つ文法などの性質的に)難しいらしい。
 
日本語会話では英語と中国語と比べて3〜4倍も相づちが多いようです。
「日本語というテクノロジーを使うだけで、コミュニケーションが規定される」
と言えそうですね。
「言語は外装可能なテクノロジー」という表現も聞こえました。

 

終わりに

個人的にワクワクする話が多く、とても楽しめる話題でした。
ヒューマンオーグメンテーション学では、今後も様々なイベントが開催されていく予定です。
興味がある人は是非チェックしてみてください!

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*1:(※1)ヒューマンオーグメンテーション学は、人間と一体化して人間の能力(知覚能力・認知能力・身体能力など)を拡張させるテクノロジーを開拓する学問領域。VR/AR・AI・くロボティクス・ヒューマンインターフェースなどの技術がこれに含まれている。(参考 

*2:(※2)暦本先生……東大大学院情報学環教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長。ヒューマンオーグメンテーション学の提唱者。暦本研から出ている研究成果には、他者の視点に入り込む「Jack-In Head」や、スマートウィンドウ「Squama」など多数。 

*3:(※3)ウィリアム・ギブスン……アメリカのSF作家。『ニューロマンサー』(1984)で「サバーパンク」というジャンルを確立した。 

*4:オーストリアリンツで開催される芸術・先端技術・文化の祭典で、メディアアートに関する世界的なイベント。